1章:記憶の物質化阻止によるPTSD予防と治療のあり方-あるいはスフィンクス

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あらすじ

少年は無罪を主張する。

カウンセラーは笑う。君の罪は確定的だ。認めろ。そうすれば助けてあげよう。

それはできない。死んだ人は、大事な幼なじみだから。
現在不仲であったとしても、いや、それだから彼女を損壊したなどという嘘はつけない。
記憶の彼方に埋葬された、輝く思い出を守るためにも。

少年の回想が始まる。何気ない日常。下手な冒険心さえ起こさなければ、それは、今日この日も続いていただろう。

声が響く。真っ白のカウンセリングルームは、白々しい嘘のようだ。

下手な冒険心。

それこそが少年の恐怖だ。
彼はあらゆる行動を忌避する。
自らの手によって転落していく未来を何より恐れる。

その恐怖に、カウンセラーはざらざらと触れた。

結末を知るものの残酷さで。

幼なじみに惨殺された秀麗な少女。
彼女にとっても苛酷な事実を否定するために、少年はやがて狂気を受け入れた。

カウンセラーの調律通りに。

彼が見たと主張するものは、およそ常人が信じがたいものだった。
魔述師(プシケイ)と神(イデア)の殺し合い。

通常人は、信じてもらいたくて言葉を紡ぐものだ。

けれど少年の姿はそれを否定する。

あれは、自分でもまるで信じておらず、それどころか信じてもらおうとさえ考えていない。
彼が紡ぐものは真実であり、同時に虚構だ。
最も否定したいものを覆い隠すまやかしだ。

それだから、聞くといい。

だんだん旋律は歪に変化する。

誰の意図で? それは分からない。
世界のどこかで、確かに少女は神(イデア)と対峙した。
氷のように冴えた意識の輪郭を、侵略者(イデア)に向けて発した。
それがか細い抵抗でも、彼女はそうすべく、存在するほかなかったから。

少女の誇りを、神とカウンセラーが両サイドから分解した。
前者は血を啜り、後者は秘密の味を舐めた。

蹂躙は容易いものだった。

少女の願いはどうしても叶わない。

それに連なるものである限り、少年の切望は砕かれるのだ。
神が舌の上にのせたキャンディーのように。世界の自己相似(フラクタル)のように。

まもなく精敏な少年は気付くだろう。

少女にとどめを刺すには(それは彼女の切なる願いだ)自分の力が不可欠で、そのため予定通り彼は 彼女を殺し、現在を塗り替えて罪は黒点のように、歴史の傷のように存在し続ける。

時間の檻を破るには、スフィンクスの喉笛を探すほかない。

正体不明の神の、ありもしない急所を。
けれど目をこらすのだ。
それは無防備にさらされている。期待にぞくぞくと震えながら。